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人情渡し船

うさぎさんのお遍路道中記

作成日:2011年09月27日 訪問日:2011年09月26日
33番札所 高福山雪蹊寺


昨夜は、久しぶりの遍路旅で疲れているはずなのに、なかなか眠れなかった。
不良遍路さんから、遍路旅に出ると『連れて帰る』ことがあるらしい。と怖い話を聞いたからだ。
彼以外からも、同じような話を聞いたことがあった。

ただでさえ、知らないところで独り眠れない私である。
やっと12時に寝た、と思ったら、深夜2時過ぎに起きてしまう。
まさに丑三つ時、目が冴えまくりだ。

慢性的な睡眠不足のまま、朝を迎えた。

さて、今日は昨日打ち終えた三十二番札所まで戻ってスタートしなければならない。
全身白装束に身を固め、気合いを入れ、ホテルを出発した。
ちなみに、ホテルは今日も連泊。ザックを置き、さんや袋だけの身軽攻撃で距離を稼ぐつもりだ。
しかし、あいにくの雨。けっこう降っている。
フロントで傘を借り、雨のはりまや橋を歩き、午前7時10分発のバスに乗る。

ガタゴト揺られながら、ぼんやり雨の街並みを眺める。
何故だろう、とても寂しい気持ちになった。
ドナドナされる牛も、こんな寂しい気持ちで景色を眺めているのかも知れない。


バスに揺られること50分、峯寺通というバス停に着いた。
昨日歩いた道を戻り、再スタートだ。

車一台がやっと通れる狭い民家道を、真っ直ぐ真っ直ぐ進む。
雨は止む気配なくザーザーと降り続く。
四国に入って思ったが、雨でもカッパを着て原付に乗っている方が多い。
名古屋では、通勤に使うのか、たまに見るが、けっこうな雨が降っていても、四国の方は、全然平気よ~気にしないけん~、どこ吹く風だ。

出会う人、出会う人に挨拶をする。が、雨のせいか、土地柄なのか、挨拶を返してくださる方は少ない。
高校だろうか、学校にさしかかるとたくさんの学生とすれ違う。
ダメもとで、挨拶する。
女子高生からは冷たい視線…遍路をあまり見慣れないのか、好奇の視線を感じた。グサグサと視線が突き刺さる。
などと、気分がだんだん滅入っていた時、ちょっとやんちゃな男子学生達が、爽やかに『おはようございます』『おはようございます』と次々に挨拶してくださった。
見た目で、この子達は挨拶してくれないだろう、そう思っていた自分が恥ずかしかった。
慌てて、挨拶を返す。
見た目は不良のようだが、思いやりや仲間を思う気持ちが人一倍強い子達なのだろう。私の学生時代の親友も、そんな子が多かったことを思い出した。

さぁ、私も元気良く、挨拶しまくろう。
ひたすら歩きながら、コメツキバッタのように、お辞儀をして歩いた。


今日は、桂浜を観光していくつもりであったが、あいにくの雨。
気分が乗らないので、兄貴遍路さんが勧めてくれた渡し船に乗ることにした。

地図に確か時刻表が載っていたな…現在の時刻は午前9時ジャスト。
時刻表を見ると9時10分発がある。それを逃すと一時間待ちだ。
距離はまだ1キロ少しある、急がねば。
慌てて早歩きだ。
スタスタスタスタタタタタ~渡し船の案内板が右へ曲がれと言う。
くるっと曲がると遥か前方突き当たりに乗船口が見えてきた。
時刻は午前9時9分。
ひぇ~行ってしまう。
大慌てで歩いていると、乗船場の係の方が、私を見つけ、両手で大きな丸の字を作り、大丈夫だよというメッセージを出してくださった。
そして、今度は両手を下に数回下げ、慌てなくていい、ゆっくり来なさいと言うメッセージを出してくださる。
息を切らしながら、発船時刻ちょうどに乗船したのだ。
係の方は『可哀想に、そんなに忙がんでもまっちょったるけん』と笑顔で迎えてくださった。
ベンチに案内され、観光パンフレットを渡された。直ぐに向こう岸に着くから、これでも読んでいなさいとおっしゃる。
そして船は静かに動き出す。あっという間に対岸に到着したのだ。
菅笠を取ってすっかりリラックスしていた私は、慌てて下船しようとした。
すると、二人の係の方が『そんなに忙がんでもええけん、そこの待合室で待ってなさい、コーヒー入れたるけん』と言ってくださった。
土佐弁は、聞いた通りに日記に書けないが、そんな感じに聞こえた。

待合室で座っていると、温かいコーヒーをおじさんが持ってきてくださった。
しばらくコーヒーを飲みながら談笑だ。
ホッと落ち着く味がした。

すると今度は違うおじさんが現れ、飴を数個手渡してくださった。そして、三人で談笑。
また一人おじさんが現れ、四人で談笑。
船は誰が乗っているのだろうか、反対行き客がチラホラ現れているが…と気にしつつお接待は続いた。
おじさん達は口々に『あんたは美人じゃけん、ワニに喰われんよう、気を付けないかん』とおっしゃってくださった。
この歳になると、見てくれを褒めていただけることは皆無だ。
嘘も方便、いいではないか。
お世辞だとしても嬉しいものだ。
つい、話を聞く相づちも大きくなる。私はお調子者だ。
しかし、おじさん達は何度も美人を連発する。5回目を超えたころから、美人の味が薄れ始めた…からかわれてるかも…なのだ。
しかし、お話は楽しい。
悪い男性の事をワニと呼ぶおじさん達が可愛かった。

すっかり寛ぎ、20分話し込んでしまった。
お礼を言い、皆さんが見送ってくださる中、歩き始めた。

ここで、遍路仲間の伊吹さんご夫妻を介して知り合った、香川県の先達さんからメールが入った。
元気に歩いているかと心配してくださっている。
先ほど渡し船のおじさんと撮った写真を添付して、元気に歩いていることを報告した。先達さんは風邪を引き、寝込んでいるという。大師様に風邪が善くなるようお願いせねば。


シャッターが閉まった商店街を抜けると、三十三番札所に到着した。
時刻は午前10時。雨の中、お寺は静かな佇まいで建っていた。
車遍路の年配ご夫妻が三組、静かにお参りしている。
私も静かにお辞儀をし、本堂そして、大師堂へ。
先ほどの渡し船のおじさん達の健康と、先達さんの健康をお願いした。

納経を済ませ、少し雨宿り。
今日は風がなく、蒸し暑い。まだ8キロしか歩いてないが、疲労感は強い。

さぁ、雨でペースが落ちている、頑張らねば。
お寺を出て、次の札所に向かおうとうろうろしていると、高知屋さんの前にいたご夫妻に、あっちあっち、と行く先を教えていただいた。
よく見れば一本道だ。恥ずかしい。

頭を深々と下げ、お礼を言い歩き始めた。
独りって、道が不安なのだ。
しかし、一本道で迷うのは、世界広しといえど、私だけだろう。
大丈夫か、自分。

 
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無料渡し船

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渡し船おじさんと温かいコーヒー

渡し船おじさんと温かいコーヒー


雨の雪蹊寺

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